ここに1冊の本があります。
タイトルは「すべての疲労は脳が原因」、医師である梶本修身氏による著書です。
脳が疲労の原因だと言われても一般的にはピンとこないかもしれませんが、当センターへ来院されている方々は聞き覚えがあるでしょうか。
当センターを訪れる方々の多くが、主訴以外の症状として「疲れ」を挙げています。
仕事で疲れ、学業で疲れ、家事や子育てで疲れ、人間関係で疲れ、天気の変化でも疲れ、挙句の果ては何もしていなくても疲れている。
そう、いま世の中は疲れている人で溢れ返っているのです。
実際に平成11年厚生省の調査では、就労人口の約60%が疲労感を感じており、その内の半数が慢性的な疲労に悩まされているとしています。
では「疲労」とは何でしょうか。
日本疲労学会の定義では、「疲労とは過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独自の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態である。」としています。
疲労は「身体の活動能力の減退状態」ですから、本来のあなたが持つ能力を発揮できない状態ということです。
それは「身体的パフォーマンスの低下」や「思考力の低下」、「反応の遅れ」や「行動量の低下」など、我々のありとあらゆる能力に影響します。
また、疲労は痛みや発熱に並ぶ生体における3大警告信号の1つです。
これらは我々の身体にとって生命維持を行う上で重要な信号であり、安全装置の役割を持っています。
つまり、これらの信号が発せられたまま生活や行動を続ける事は危険だと訴えているのです。
「疲労」と「疲労感」の違いは何でしょうか。
これも日本疲労学会によると、「疲労は心身への過負荷により生じた活動能力の低下」とし、「疲労感は疲労が存在することを自覚する感覚で、多くの場合不快感と活動意欲の低下が認められる」としています。
なので、実際に我々が感じる「疲れ」は「疲労感」であり、「疲労」とは「活動能力の低下した状態」を指します。
ここで、「疲労」状態なんだから「疲労感」を感じるのは当たり前じゃないか!と思ったあなた、良いところに気づきました。
では、そんなあなたに質問です。次の様な経験はありませんか?
長時間のデスクワークや勉強、マラソン大会やサッカー大会への参加、週末のゴルフや家の掃除など、どれも行うことで疲労が蓄積し、時間の経過と共に疲労感が増すことが予想されます。
ですが長時間のデスクワークを上司や同僚に褒められたり、大会の結果やゴルフのスコアが良かったり家がきれいになると、行った後であまり疲労感を感じなかったという経験はありませんか?
また、好まない単純作業ではすぐに飽きて疲れてしまっても、大好きなゲームや趣味に没頭していると、あっという間に時間が過ぎていた、など。
この場合、実際には「疲労」しているのですが、「疲労感」を感じない、または「疲労感」が隠された状態になっているのです。
「ランナーズハイ」などは、この典型ともいえる現象でしょう。
前回の「カフェイン中毒」にも書きましたが、カフェインを摂取することで覚醒を促したり活動能力を上げることは、まさにこの「疲労感」を隠している行為にすぎません。
仕事や勉強で頭を使うと頭や脳が疲れて、運動などで体を使うと体が疲れるといった感覚をご経験の方もいると思います。
でも実際はどうなのでしょうか。
冒頭で紹介した本によると、梶本先生の研究では4時間程度の運動負荷を与えても、筋肉や肝機能にはほとんど影響がないそうです。
また、筋肉を挫滅させるような一部の激しい運動では筋細胞から離脱した酵素が認められるものの、他の有酸素運動と同様に疲労感を自覚することから、疲労と筋肉には相関性がないとしています。
では疲労の中心はどこにあるのでしょうか?
梶本先生によると、疲労の中心は「脳の自律神経の中枢」と呼ばれる視床下部や前帯状回にあるようです。
勉強も運動も「脳」が働かないことには何もできませんが、その際に視床下部や前帯状回での仕事が増えて活性酸素の量が増えます。
この活性酸素による酸化ストレスが上記部位の活動性を抑制し、自律神経機能が果たせない状態になったのが「疲労」ということのようです。
またこの状態を脳の前方にある眼窩前頭野で感じ取ると「疲労感」として自覚するとしています。
表現に違いはありますが、当センターが提唱している治療法も「自律神経の中枢」辺りを含んだ脳から発信される「警告信号」に気づくことが大切であるとしています。
これらの警告信号が発せられるにはそれなりの理由があり、それを無視したまま行動することは我々が生物として生き永らえることの困難を予想させます。
あなたがよりあなたらしく生きるためには、これらの「警告信号」に気づき、そして受け入れて従うことが大切なのです。
皆様の日々の健康を願って